山ではなく頂が平面であること

山ではなく頂が平面であること

平野泰子

2023.5.12 fri - 6.10 sat

この度、TEZUKAYAMA GALLERYでは、平野泰子個展「山ではなく頂が平面であること」を開催いたします。

1985年富山県生まれ、神奈川県在住。京都精華大学芸術学部造形学科洋画専攻を卒業し、現在に至るまで精力的に制作・発表を行ってまいりました。

 

平野の絵画は木製パネルにキャンバスを張り、膠と石膏で下地を施し、乾燥後に入念に研磨したのちに、三原色の油絵具を何層にも塗り重ねて制作しています。その作品の根底には「風景」があります。視覚・嗅覚・触覚、物質的な要素から精神的な要因までも掬い取り、いつか見た風景を現在の平野が描くことで時間をつなぐ多層的な作品が完成するのです。それはまるであの時がこちらを見返してくるような「今」という感覚の中で描かれています。「見る」「見られる」という行為を重ね、あらゆる視点から描かれた作品は世界の深部に迫る複雑な画面へと変貌し、意味を遠ざけつつ名付けようもない現象の存在を鑑賞者の皆さまにも感じていただけるものとなるでしょう。

 

TEZUKAYAMA GALLERYでの初個展となる今展は、新作の絵画およそ15点を展示いたします。

吸い込まれてしまうような奥行きを憶える作品が並ぶ本展覧会、この機会に是非ご高覧くださいませ。

 

[アーティスト ステイトメント]

制作過程では、まず「塗り重ねる」という行為があり、そこから想起し、対象を近づけたり、遠ざけたりするような感覚で制作は進んで行きます。このプロセスは風景画を描いていた時の「描こうとすればするほど遠のいて行く」という、常に虚像を孕んでいる絵画の問題に通じています。想起されるのは、故郷の山々、踏み締めた畦道や見上げた空、誰かに対する想いなどです。これらの要素がきっかけとなり、身体が跳躍することを可能にします。そのような想いにアクセスすることで、循環的な行為は自分や社会的制度から解放される術となります。

情報と物理空間が入れ子状になっている現代において、イメージはどこからやってくるのかに興味があります。他者が用意したイメージを消費するのではなく、制作することで繰り返し、差異を生み出し内在化する図を取り出すことで、 主体と客体が互いに変化する可能性を自覚します。 本展覧会のタイトル「山ではなく頂が平面であること」とは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神分析家フェリッ クス・ガタリ「千のプラトー」にて考える哲学的な概念を、わかりやすくする比喩として用いられている言葉です。 階層的(山)の捉え方ではなく、平らな場所(平面)の上で、物事が互いにつながり合っている考え方を提案していま す。そこに自身の制作行為から、身体の跳躍を可能にすることに準えました。画面と向き合う中で、生まれる眼差しや 不確かなものに強度を持たせるために制作しています。