What are we really looking at?

What are we really looking at?

栗棟美里

2026.1.24 Sat - 2026.2.21 Sat

この度、TEZUKAYAMA GALLERYでは栗棟美里の個展「What are we really looking at?」を開催いたします。

1988年生まれの栗棟は京都精華大学及び大学院で版画を学び、現在は出身地である兵庫県を拠点に活動しています。

栗棟の作品の根底には、美醜・時間・生命といった「人間の存在」を規定する本質的な問いに迫ろうとする姿勢が見て取れます。作家としてキャリアをスタートさせた初期の作品では、自身が撮影した写真素材を支持体とし、その上から様々なメディウムで描画を施す手法で作品を制作してきました。2020年から制作している《Images》では、レンチキュラーレンズの流動的な視覚効果を表現に取り入れるなど、写真をはじめとした複製技法の可能性の探求と視覚表現の拡張を試みています。

約5年ぶりの個展となる本展は、前述の《Images》シリーズと、新シリーズ《Display》の応答関係を意識しながら、展示空間が構成されます。近年、栗棟が関心を向けているという、急速なテクノロジーの発展に起因する視覚情報の虚実、情報と認知の関係性の変化、存在の脆弱性といった、今日的な問いを顕在化させます。

どうぞ、この機会にご高覧下さいませ。
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アーティスト・ステートメント:

実像と虚像、存在の不確かさ、そしてデータや写真の信憑性への問い。 2020 年に始動したシリーズ《Images》は、これらのテーマを起点として制作を重ねてきました。

近年、AI 技術の急速な発展により、私の関心は「目の前の存在」を捉えることから、「構造的操作によって形成される人物像」へと移行していま す。 ここでいう「構造」とは、アルゴリズムやデータベースなどの技術的枠組みと、価値基準や社会制度といった社会的枠組みの双方を意味します。 この二つは互いに影響を及ぼし合いながら、私たちが何を見るか・何を見せられるかを形作っています。 この相互作用への関心から、《Images》というタイトルが持っていた「知覚される存在」という響きは、「構造によって構築された視覚記号」へとシフトしつつあります。

また、そういった推移の過程から、新シリーズ《Display》が生まれました。 AI 生成画像に描かれた水滴を立体的に印刷・再現することで、二次元データが三次元の存在感を凌駕するかのような感覚を提示します。 ここでの関心は、視覚がどのように「実体験」にアクセスし、あるいはそこから乖離していくのかという、視覚と現実の関係そのものにあります。

私の作品の背景には二つの層の「リアリティ」があります。 一つは、構造的に操作された視覚記号を受け取り、それをもとに脳が構築するリアリティ。 もう一つは、東洋思想、とりわけ唯識の考え方に基づく「すべての存在は心のはたらきによって現れる」という視点です。 つまり、私たちは「何を見たいか」「何を現実として捉えたいか」という内的欲望や信念によって、世界の現れ方そのものを形作っているのです。

この二つのリアリティは、カメラで記録された写真にも、AI 生成画像にも、そして日常の膨大な視覚情報にも複雑に絡み合って作用し、 実体と虚像、事実と解釈の境界を限りなく曖昧にします。

《Images》は、存在の不確かさと相互規定としての「構造」を問うシリーズであり、
《Display》は、AI 生成画像と立体的再現によって、二次元と三次元の間に生じる感覚の揺らぎを可視化します。

本展では、この二つのアプローチを対置することで、鑑賞者が自身の知覚や価値、そしてリアリティがどのように形づくられているのか、 その背後に潜む構造と欲望の成立過程に意識的にアクセスし、問い直す場を創出します。

栗棟美里