omni prism

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髙倉大輔

2025.5.31 Sat - 2025.6.28 Sat

この度、TEZUKAYAMA GALLERYでは、東京を拠点に活動する髙倉大輔の個展「omni prism」を開催いたします。1980年東京生まれの髙倉は、立教大学在学中より俳優として演劇の世界に入ります。その後、写真とデザインに関わりながら独学し、多様な表現方法を探求してきました。現在は、それらの技術と日々の経験をもとに、演劇というバックボーンを軸にした写真作品を制作しています。

 

本展覧会では高倉の代表作ともいえる「monodramatic」シリーズと3Dスキャンを駆使した新たな試みである「tunica」シリーズを中心に発表いたします。

自己とのコミュニケーションや人が持つ選択肢・可能性・物語などをテーマに被写体へヒアリングし、イメージを作り、それに合わせた演出を施して独自のシーンを写真で表現した「monodramatic」。3Dスキャンを写真行為とすることで、3Dスキャナーをカメラとして使用し被写体の3Dモデルを取得し、通常のカメラで撮影した写真と組み合わせることで新たなポートレート像を生み出した「tunica」。それらを同空間にて高倉が演出家としてミザンス(立ち位置)を決めることで、SNS時代の「見る・見られる」という監視的関係性と、演劇の円形劇場の構造を重ね合わせた空間構成を採用しています。「monodramatic」や「tunica」では、社会的構造の中に存在する不特定のキャストをイメージし、壁から離れた展示手法により、被写体の実在感を浮き彫りにします。観る側もその関係性に巻き込まれ、自身も舞台の一部であるような没入感を体験できるでしょう。

 

本展は同作家のおよそ6年振りとなるギャラリーでの個展となります。 ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

 

 

 

[アーティスト・ステートメント]

コロナ禍を経てこの数年での世界の急速な変化は今までに感じたことがない大きなものだった。

社会の中に潜んでいた不安や不条理がはっきりと顔を出し、日常にも確かに影響を及ぼしている。

親が年老いていくこと、子供を持つことへのリミット、自らの心身の変化といった個人的体験もそれに拍車をかけた。

日常的となったスマートフォンやSNSは生活の利便性を格段に上げた。

手のひらの中のテクノロジーは加速度的に進化を重ね、デジタルドッペルゲンガーとも言える分身も容易に生み出し、私は今日もビッグデータが生み出す知性に近づこうとする存在に相談をする。

そこには全方位的にみられているような息苦しさや、虚実の境界がなくなっていくような不安が伴い、じわじわとデジタルや構造に侵食されている恐怖をふと感じる。

しかしそこにはまた蠱惑的でまだ見ぬ何かも存在していて、目を離せない自分がいる。

創作の新たな可能性や未知の物語の入り口がその歪みの中にあるかもしれないからだ。

作家活動を続ける中で出会った被写体の方たちの人生にも様々な変化が訪れている。

俳優活動を続け大きく羽ばたいた人もいれば、ある人は表舞台から離れ、またある人は家庭を持ち、新しい命を迎えた。

それぞれに尊く、作品を作る大きなモチベーションともなる。

誰かの幸せは、必ずしも他の誰かの幸せにはならない。

以前は知り得なかった遠くの物語や、小さな声で語られる物語を目にするようになった。

ほんの少しの、断片にも満たない情報で物事をわかったように受け取り、それでもその情報の多さと流れの速さに対処しきれず足元を掬われてしまう。

生活があり、それを取り巻く社会があり、陰も陽も虚も実もないまぜに人は出来上がっている。

足がすくんでしまっても、目を開いて見たものを受け止めることはしたい。

様々な方向から刺す光を一束でも集め結像し、輪郭を描く。

光はそれぞれの物語であり、自分が何かを作ることもまた誰かの何かの微かな光になることを信じたい。

描かれた輪郭が、見る人それぞれの物語と交差し、新たな像を結ぶことを期待し、試みる。

髙倉大輔