Viewing Room
Folk Tale
小池一馬
2026.3.21 Sat - 2026.4.18 Sat
このたび、TEZUKAYAMA GALLERYでは、3月21日より小池一馬の個展「Folk Tale(フォーク・テイル)」を開催いたします。
当ギャラリーでは2020年以来、6年ぶりの個展開催となります。その間にヨーロッパ、アメリカ、アジア各地での展覧会やアートフェアに積極的に参加し、活躍の場を世界へと広げてきました。また、2025年に開業したランドマークビル「淀屋橋ステーションワン」(30階)への作品設置や、「KIX CULTURE GATE Project」における関西国際空港での作品写真の展示など、関西においても発表の幅を着実に広げています。
小池一馬は1980年に神奈川県に生まれ、幼少期をアルゼンチン・ブエノスアイレス、高校時代をスペイン・バルセロナで過ごしました。2003年に日本大学藝術学部美術学科彫刻専攻を卒業後、2012年に関東から関西へと活動拠点を移し、現在は大阪を拠点に制作を続けています。陶を主素材とした彫刻を軸に、絵画やドローイング、さらにそれらを有機的に組み合わせたインスタレーションへと展開し、表現媒体を軽やかに越境しながら彫刻・絵画・空間の関係性を再編してきました。
土偶や埴輪、円空仏、さらにはルネサンス期の「驚異の部屋(キャビネット・オブ・キュリオシティ)」に見られるような信仰や知の体系と結びついた神秘的な造形や営為に影響を受けた小池は、形態の曖昧さや生成過程における変容そのものを、造形を成立させる本質的な要素として肯定的に捉えています。陶作品は、最終形態をあらかじめ厳密に設計するのではなく、成形から焼成に至る過程で物質が自律的に変化する余地を受け入れることで成立しています。とりわけ焼成は、窯内の温度変化や釉薬の反応といった制御しきれない条件を通じて、形態と表面の質感を左右する重要な工程となっています。
また、作品に用いられている黒釉(鉄分を多く含み、酸化焼成で黒色に発色する釉薬)による単一の色調で覆われた暗く深い表面は、風化や侵食、あるいは儀礼的対象に蓄積された時間を想起させます。同時に、異なる文化的・象徴的要素が一つの形態のなかで統合された状態を表しています。それは意味を固定し伝達するための記号的な造形ではなく、物質と時間、そして想像力の相互作用のなかで立ち現れる、流動的な存在として提示されます。
これらの作品の背景には、日本固有の神道信仰と外来の仏教思想が、長い時間をかけて相互に影響し合いながら融合してきた「神仏習合」の思想に通じるものを見出すことができます。小池にとって、各地の寺院を訪れ、建築や庭園、彫刻といった宗教的造形に触れる経験は、制作を支える重要な参照源となっています。作品では神像や偶像彫刻、虎をはじめとした猫科の動物、植物、パイナップル、壺など、様々なモチーフが繰り返し登場します。例えば、江戸時代に描かれた虎の図像は、中国から輸入された絵画や毛皮などの断片的な情報をもとに、日本の絵師たちが猫などの身近な動物を参照しながら、実物を直接観察することなく想像的に再構成したものでした。このように、異なる要素を自由に統合し、新たな存在を立ち上げようとする人間の想像力の働きは、小池の制作態度とも深く共鳴しています。
本展タイトル「Folk Tale(フォーク・テイル)」は、特定の作者や起源を持たず、人から人へ語り継がれるなかで変容し続けてきた民話や伝承を指します。小池の作品もまた、明確な物語を示すのではなく、鑑賞者それぞれの記憶や信念、文化的背景に応じて異なる像を結ぶ「語られ得る存在」と捉えることができるでしょう。本展では、陶彫作品20点、絵画作品12点に加え、64点組のドローイング作品を発表します。
この機会にぜひご高覧くださいませ。