絵画の証 -彫る絵画-

絵画の証 -彫る絵画-

鈴木淳夫

2025.9.20 Sat - 2025.10.18 Sat

このたび、TEZUKAYAMA GALLERYでは9月20日より鈴木淳夫の個展「絵画の証-彫る絵画-」を開催いたします。

1977年に愛知県に生まれた鈴木は、2001年に静岡大学大学院教育学研究科を修了。現在は生まれ故郷の愛知県豊橋市を拠点に活動しているアーティストです。

自身の作品を「彫る絵画(Carved Painting)」と称し、幾重にもパネルの上に塗り重ねた絵具の層を彫刻刀で彫り出し、様々な図柄を描く作風で制作を重ねてきました。この作業自体が、鈴木の身体の動きと時間の積み重ねを反映しています。塗ること、彫ること、それぞれの手のひらの動き、力の加減、どこまで彫るかという判断の一つひとつが、時間の経過とともに身体に負荷を与え、同時に作品に刻み込まれていきます。

このプロセスは、物理的な重層性(絵具の層、彫刻刀で彫られた層)に加え、作家の精神的な重層性と見事に融合しています。絵具を「塗る」「重ねる」「彫る」「消す」といった行為の背後には、時間と身体が影響を与え、作家自身の思索や感情、さらには制作過程が反映されています。この重層的な作業の結果として生み出された作品は、鑑賞者にとって単なる視覚的な存在にとどまらず、作家の時間の蓄積、色彩の思考、身体の使い方、そしてその過程までもが「語られている」かのように感じさせるでしょう。

今回の「絵画の証」展では、2021年より始めた企画「絵画の証」を通して、鈴木が自身の絵画観を示そうとする意志が込められています。

この機会にぜひ、ご高覧下さいませ。

 

[アーティスト・ステイトメント]

序論

私は彫る絵画を模索し始めた頃から「絵画とは何か?」を考え続けています。その思いを深めることになったのは、2003年、Gallery Yamagu-chi kunst-bauの企画で開催された「絵画の証」展に参加したことでした。絵画が成立する要素とは何か。単に視覚的な美しさや図像を追求するだけではなく、そこには物質と作家の身体、思考が交わる場であるべきだと強く感じたのです。

絵画を構成する要素は、キャンバスやパネルなどの支持体と、その上に置かれた絵具です。しかし、それだけで絵画は成立するのだろうか。重要なのは、その間にある作家の手仕事や思考です。絵具を塗る、削る、重ねる、消す。これらの繰り返しが、画面に「絵画の証」を残します。

たとえば、草間彌生の静岡県立美術館に所蔵されている《Untitled (No.White A.Z.)》は、一面の淡い白に見えますが、近づくと無数の筆致が積み重なり、作家の時間と身体の痕跡が見えてきます。この「見えないものを見えるようにする」という感覚は、私に強い感銘を与えています。


1. 彫る絵画と視覚混合

私は作家活動以前に、油絵や木炭デッサンに取り組んでいました。そこでは絵具を塗り、取り除くという行為を繰り返し、いつまでも完成しない、終わりのない行為へのジレンマを感じていました。何度も描き直す中で、色彩や形は変化しても、その下には無数の試行錯誤の跡が刻まれていく。この「時間」と「痕跡」をより明確に表現する方法を探りたくなったのです。

そこでたどり着いたのが「彫る絵画」です。絵具を塗り重ねた後、彫刻刀で表面を削ることで、下層の色が再び姿を現す。削り取ることで過去に塗った色が再度現れ、画面上では混ざらず、鑑賞者の視覚の中で混色します。さらに、凸凹があることで、鑑賞者が見る角度や光の入り方によっても表情が変化し、絵画と立体のあいだを行き来する存在となります。

あるとき、パフォーマンスとして公衆の前でこの技法を実演しました。その場で黙々と彫り続けている私を見た一人の老人が「生きていてよかった」と呟いたことを覚えています。単純に見える作業の中に、見る者それぞれの意味が宿ることを感じました。


2.「絵画の証」展の企画

2021年、私は「絵画の証Ⅲ ‒ 東海版 -」を企画しました。一人で考え続けるだけではなく、浅野弥衛、国島征二、山田純嗣といった作家たちと交流し、その独自の技法と制作姿勢に触れました。

続く2023年の「絵画の証Ⅳ」では、和田直祐との二人展を開催しました。彼との展示は、デッサン的な手法や思考の重要性を再認識しました。私はこれらの展示を通じて、絵画の可能性を再確認しました。


結論

以上の経験を経て、私はいよいよ一人で「絵画の証」展を開催し、自らの絵画観を示そうと決意しました。特に今回の個展では「色彩」に焦点を当てています。

20年以上続けてきた彫る絵画という技法は、私に新たな発見や挑戦をもたらしてきました。それらの積み重ねが、私の表現を形作っています。

私はこれからも、自らの手でその「絵画の証」を探し続け、表現をさらに深めていきたいと思います。


鈴木淳夫 2025/05/14 大安森林公園にて