”binary”

”binary”

加藤智大

2024.5.17 Fri - 2024.6.15 Sat

TEZUKAYAMA GALLERYでは517日より、およそ5年ぶりに3回目の加藤智大の個展「”binary”」を開催いたします。

加藤智大は、2006年に多摩美術大学大学院美術研究科修士課程を修了後、金属加工会社で腕を磨きながら作家としての地歩を固めます。2013年、第16回岡本太郎現代芸術賞展にて発表した「鉄茶室轍亭(2012年制作) 」が岡本太郎賞を受賞。また、同年に岡本太郎記念館で行われた個展「太陽と鉄」では、牢獄を模した自身の作品の中に、館の所蔵品である岡本太郎の作品を投獄するという、強烈な視覚体験と批評性に富んだインスタレーションを発表。重々しい鉄格子に囚われた作品は鑑賞する事を阻害され、モノとしての脆弱性が浮き彫りとなります。また、牢獄という制度を模倣する事で、鉄という物質が持つ根源的な暴力性を見事に視覚化するとともに、美術館という権威主義的な体制に隠れた側面も同時に表現しました。次に加藤は檻に囲われた作品に影が落ちる様を作品として抽出しました(anonymous series)。鉄格子と人の間にある影は社会が持つ境界とリンクしているようにも読み取れます。社会の境界線を彷徨うモノとして犯罪経歴を持つ者がモチーフになるのは必然だったといえるでしょう。複雑な鉄線の羅列によって抽象化された作品は、視点を動かしながら鑑賞することで干渉縞(モアレ)の視覚効果を引き起こします。以前とは正反対に、鉄の強固な物質性は去勢され、まるで揺らめく残像のように空間に佇みます。

これまでanonymous seriesは全身・半身像、兵器などのモチーフを中心に発表してまいりましたが、本展では頭部に焦点を当てた立体作品を発表いたします。全身像では表現されなかった詳細な顔の造形が顕になると同時に、巨大なスケールであるが故、近づくほどにその正体は曖昧模糊な物体、鉄輪の積み重ねであることを強く認識させられます。

時間や事象の積み重ねにより社会観の変化が著しく見受けられる昨今、加藤自身にはどのような積み重ねがあったのでしょうか。

時代と加藤を繋ぐ作品群の新たな局面を是非、この機会にご高覧賜りますよう、お願い申し上げます。